つれづれ音楽NOTE

ジャズピアノの練習やレッスン、音楽制作のこと等々、気の向くままに思っていることを綴るブログです。

ジャズピアノの習得[6] テクニックと表現力

★読む(1)

今日は「読む」ことについて書いてみます。
これはインプットでもあり、実際に音出しする場合はアウトプットするためのトレーニングでもあります。

音楽で「読む」というと、譜面になりますね。

ジャズピアノの譜面は通常、いわゆる「リードシート」と呼ばれるメロディーとコードだけが書かれた1段譜か、さらにリズムのキメや指定のベースライン等が書かれた2段譜の「マスターリズム譜」と呼ばれる譜面を使用することが多く、クラシックのような全ての音符が書かれたピアノ用の2段譜を使用することはまずありません。指定以外の部分は演奏者に委ねられる部分が大きいのです。

なので好きなように弾けるというのがジャズの面白さではありますが、逆に言うと、自分が現在持っているものしか出せないので、ずっと手癖だけで弾いてしまったりしていると、テクニックや表現力がなかなか向上しないという問題があります。

例えば、コンボでジャズばかり弾いていると、左手はコードを弾くということが多いため、左手のテクニックがなかなか身につかないということがありますし、右手でも薬指、小指は弱くて思うように動きにくいので、ほとんど他の3本の指だけでソロを弾いてしまう方もいます。

ジャズは自由に弾いて構わないので、別にそれがダメという訳ではありませんが、表現の可能性がどうしても制限されてしまいますよね。
せっかく頭の中に音がイメージできても、それを実際の音にするためのテクニックや表現力が不足しているためにアウトプットできないのはもったいないです。
自分が話したいことを話せるテクニックは、最低限身につけなければいけません。
お笑い芸人さんがネタとしてはめちゃくちゃ面白いことを話していても、カミカミだったり棒読みのような話し方だったら全然面白くないですよね。


前に「聴く」のところでインプットの大切さについて書きましたが、かと言って耳コピしたフレーズの練習だけではなかなかテクニックや表現力を身につけるのは難しいと思います。

引き出しを増やすためのインプット(語彙力やアイデアを増やすこと)と、テクニックや表現力をつけるためのトレーニング(滑舌を良くすること、感情をこめて話すこと)というのはまた別だと考えています。

こういったテクニックや表現力は、ある程度クラシックをやっていた方なら身についているかもしれませんが、そうでない方には、アドリブ練習だけではなく、あるレベルに達するまでは2段譜の譜面(ジャズアレンジ譜やクラシック、etc.)で、決められたことを弾く練習もすることをおすすめします。

これは読譜力をつける、自然な(効率的な)指使いを覚える、というだけでなく、自分の中にはないものを弾くということと、音に表情を付けるための指のコントロール(強弱、抑揚、アーティキュレーション等)や指を動かすテクニックを身につけるために必要なことだと考えています。

同じ「おはようございます」でも言い方によって感情の伝わり方が全然違いますよね。それと同じように、音楽も音符を譜面通り弾いても、弾き方によって音の表情や伝わり方が全く変わります。

現在、第一線で活躍しているプロのジャズピアニストはほとんどがクラシック経験者です。そういう方達の演奏を聴くと、やはり音に深みがあるというか、ジャズだけやってきた方とはタッチや表現力が全然違うなと感じます。

ジャズとクラシックでは弾き方(指のタッチ)が異なる(なんなら逆だ)と思っている方を時々お見かけするのですが、私はそうは思いません。どちらも基本的に同じで、ジャンルの違いではなく単に曲ごとの曲調(楽器の編成を含む)の違いではないでしょうか。ジャズだから強く雑に弾いてもいいというわけではありません。音色を意識することはとても大事です。一流の方の演奏を聴いてみるとわかると思います。


クラシックのように2段譜の譜面通りに演奏することは「読む」ことで、アドリブで自分の思うことを弾くことは「話す」ことですが、音での表現ということでは違いはなく、どちらにしても指のコントロールの練習は必須だと考えています。

本来はアドリブで弾きながら同時に音のコントロールもできるべきで、それが最終目標ではありますが、最初のうちはアドリブで弾くフレーズを考えることやリズムに乗ることだけで精一杯だと思いますので、まずはそれができるようになる練習をし、併行して、あらかじめ決まった音符を弾くことで指のコントロールの練習をして身につけていくようにしましょう。


表現力のための練習なら、感情をこめられるようなメロディックで美しい曲を弾いてみるのがいいですね。クラシックならロマン派以降がおすすめですし、ポピュラーや日本人作曲家の曲でも良い曲や素晴らしいアレンジがたくさんあります。ジャズアレンジならバラード系の曲などがいいでしょう。

あるテクニックを集中的に練習したいという場合は、ハノン、ピシュナ、ツェルニー等のテクニック系の練習曲から選んだり、バッハなど両手を均等に使うような曲が効率的だと思います。ジャズアレンジなら左手がウォーキングベースしているような曲とか。

もちろんメロディックでかつテクニックが必要な曲もたくさんあります。
例えば、有名な「エリーゼのために」は初級者向きと言われていますが、小指と薬指という弱い指でのトリル、オクターブの跳躍、同音連打、アルペジオクロマティックスケール、16分・3連・32分への譜割の変化、そしてペダリング等の様々なテクニックに加えて、せつないメロディーと力強い部分の対比など表現力もかなり必要な曲です。

こういったことを参考にして、自分の現在の技量より少しだけ上くらいのレベルで、自分が弾いてみたいと思う曲(弾いていて楽しいと思える曲)を弾いてみましょう。

これは譜面通りに間違わずに弾けることが目的ではなく、間違わずに弾けて当たり前で、できるだけ毎日ウォーミングアップとして弾くことに意味があり、それによって指のコントロールを身につけるということが目的です。従って、1〜2ページくらいの曲で十分だと思いますし、時間がなければマスターしたいテクニックの数小節の部分だけでも構いません。

ハノンやピシュナは、例えば4、5の指が弱すぎるため強化して均一に動かせるようにしたいというような方の場合に有効です。特に小指って、右手はメロディーとなるコードのトップノートだったり、左手はベース音だったり、他の音より強調することが多くて、結構重要な役目を担っている指なんですよね。

で、ハノンはそのままただ弾いているだけでは単調で面白くありませんが、メジャースケールでできているので、ダイアトニックコードを裏拍につけたり、フレーズをアレンジしたり、ドラム&ベースをつけて様々なリズム練習と組み合わせたり、マイナースケール等他のスケールで弾いてみたり、スケールワイズ進行等に小節の順番を変えたり、左手の度数をずらしたり(右手は1度、左手は3度の音から始める、等)、これらを移調したり、1小節目のパターンを半音ずつ上げて(下降では下げて)いったり(つまり1小節ずつ移調、2小節目のパターンならドリアン、3小節目ならフリジアン…といった感じ)、やり方を工夫すればジャズを演奏するための基礎練習にもなります。(私のレッスンの中でもやっていますので、興味のある方はどうぞレッスンにお越し下さい。)


あと、ジャズアレンジ譜の場合は弾くだけではなく、さらにリードシートと比較しながら、アレンジ分析も行うようにしましょう。前にも書きましたが、ジャズでは応用することが大事なのです。

テーマも決して、単純に右手メロディー、左手コードだけではないはずです。
オブリガートクリシェの入れ方、右手と左手のコードの分担、リハモニの仕方など、こういうのは実際のアレンジを弾いていく中で、こういうコード(進行)の時にこういう音使いをしているんだなと理解する方が身につきます。(これをまた自分のネタ帳に書いておくといいですね。)

そしてそれを、ソロピアノで自分で他の曲をアレンジしたり、トリオでもテーマを弾く際のアレンジに生かしていきましょう。